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…3つ半よ…。
彼女は小さく肩をすくめて、カップに手をのばす。
頬に湯気があたると、何だか、ほぐれてゆく。
優しい気分っていうのか、ちょっと疲れた気分っていうのか。
まだ勤務中だってこと、忘れてしまいそうだ。
「ね、先輩。どうしてクリスマスが嫌いなんですかっ?」
「うーん。まあね…」
せっかく、人が言葉をにごしているっていうのに、今どきの若いもんときた日には、思いやりとか気づかいってもんが無いのか。
「あーっ。嫌な思い出があるんですね?辛い恋の記憶とか」
「失礼ねつ!誰がそんなこと言ってるのよ」
「あーっ、そうやってムキになるところが、真実を語ってるもん」
なんて、ナマイキだワ!
「ダメだな、先輩って。ウソつけないタイプだからな。さっきだって、ぼく、一瞬、あせりましたよ」
彼は、クライアント先で彼女がハッタリをかけそこなったことを、指しているのだ。
いや、からかっているのだ。
確かに。彼がすかさず大風呂敷をひろげ、その場はまんまと丸めこめたのだけれど。
「ホラいうのも営業の才能のうち、なんて思ったら大間違いよ。いつか足すくわれるから」
彼女は、先輩の威厳をもって断じた。
けど。
「ついてますよ」
彼ときたら、人の話を聞いているんだかいないんだか、いきなり人差し指をスッとのばして、彼女の唇の端についてだ生クリームをひとすくい。
あまつさえ、それをペロリとやったのだった。

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